君とドックイヤー


私は、微かな記憶の中に忘れられない人がいる。
彼は酷い猫背で、薄いクマを目の下にもっていた。

「元気にしてるかな?」

もしかすると、私の記憶違いかもしれないけれど。だけど、彼はやっぱり近くにいた気がするのだ。
私が挫折したときも、苦しかった時も悲しかった時も、嬉しかった時も。
最後のお別れの時、私は彼に何か言葉を貰った気がしたけれど、今はもう忘れてしまった。
大切なのは、彼に言葉を貰ったという事実で、けして、言葉そのものでは無いとは思う。だけど時々、無性に覚えてないことを悲しくかんじる。



『じゃあ、ね』

『はい』

『エルは、本当に探偵になるの?』

『そのつもりです』

『そっか』

『はい』

『あの、さ』

『なんでしょう?』

『大好きだったよ』



(君とドックイヤー)(朧げなあの頃の)(唯一はっきり覚えているもの)










『私は、貴女の隣にこれからもずっと在ります』

だから、
行ってらっしゃい









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